今から10年以上前の話です。
「一口ご飯食べただけで、『ギャーッ』って飛び上がって逃げていく子がいるんです」
ある日、エサやりさんから一本の電話がありました。
私が猫の避妊・去勢手術をしているエリアでのことです。行ってみるとそこにいたサビ猫に見覚えがあり、一年ほど前捕獲して避妊手術で病院に連れて行った子でした。
当時、病院から「歯がボロボロだったので、全抜歯もしました。念のため、自宅で数日抗生剤をあげながら様子をみて下さい」と言われ、数日間だけこの子を自宅で保護していた経緯がありました。抜歯後は順調で、ご飯を食べられるようになったのでリリースしましたが、その後口内炎がかなり悪化してしまったようです。
エサやりさんが言った通り、食べた瞬間すごく痛がり走って逃げていきます。
でも翌日またお腹が減るので、ご飯を食べに現れるの繰り返しでした。
これでは衰弱して死んでいくのが目に見えています。何より、痛みに強い猫がこれだけ痛がるとは相当酷い状況です。幸いにも触れる子だったので、キャリー持参で保護することにしました。
かかりつけの獣医さんに連れて行くと、歯茎が真っ赤を通り越し、どす黒く喉の奥まで続いていました。
「これは痛いわ…」
しかも、あまりの痛みに自分で自分の歯茎を爪で引っ掻いてしまい、歯茎が何か所も切れていました。応急処置で、痛み止めと抗生剤の注射を打ちます。
「何歳ぐらいだろう?歯が全部無いので、年齢が推測できないですね。」と先生。
「一年前に避妊手術した病院にカルテが残っているかもしれないから、そこに聞けばもしかしたら年齢がわかるかもしれません」
私は早速、手術した病院で一年前のカルテを調べて貰いました。
とにかく歯がボロボロだったので、推定で10歳前後ではないかとのことでした。
サビ猫は毛艶も良くなかったので、先生の仰る通り推定10歳としました。
そして「メェ~」と鳴くので、「うめ」と名付けました。
うめの口内炎は壮絶でした。
いつぐらいからかほとんど何も食べていなかったようで、体重は2キロを切っています。
症状はかなり悪く、痛み止めなんて1日ぐらいしか効きません。
自宅に連れ帰っても、痛みで何も食べず、暗い場所でうずくまって動きません。
唾も飲み込めないのか、口の周りは唾液がダラダラと。
どうにか食べて欲しいのですが、ウェットは滲みて痛がり食べられません。ドライもダメ。
鳥胸肉をうすーくスライスしたものをチンして、免疫力があがる美味しい(らしい)サプリメントを少しかけて、与えてみました。
うずくまっていたうめが起き上がり、私の方をチラッと見て、仕方なさげに少量だけ食べてくれます。その時のうめの顔は今でも忘れることができません。
先生も色々考えてくれて、「全抜歯されているようだが、歯根がわずかに残っている。その歯根から痛みが来ている場合があるので、一度手術で除去しましょう」
それで、うめの痛みが無くなるのなら是非!
痛み止め、ステロイドを使いながら、少しでも食べて貰い体力を維持させ、手術を実施しました。
術後に見たうめの歯根。ほんとに小さな欠片がいくつも出てきました。
これを取るのに、先生大変だっただろうなと感心してしまいました。
更に、切り裂いてしまった歯茎もしっかり縫い合わせてくれました。
術後のうめは、少し良くなったように思えました。
けれどそれも束の間。また痛がり始めました。
難治性口内炎
先生が病名を言ってくれたわけではないけれど、おそらくそうだったのではないかと思います。
カリシウィルスが影響しているのではないかと仰っていました。
ずっと外猫でしたし、常に涙が出ていたので、ウィルスは潜在的に持っている可能性が高いです。
うめが痛がってまた手で歯茎をひっかくので、痛み止めとステロイドをうってもらいます。
中でもステロイドは一番よく効きました。
ステロイドをうつとしばらく痛みがなくなるのか、ご飯をモリモリ食べて、ぐっすり眠ります。
しかし1ヶ月経つと、また痛みが出てくるのでまたうちます。
「今はステロイドが1ヶ月ぐらいもつけど、徐々にその間隔が短くなっていきます。2週間に一度とか。1週間ぐらいになると危ないです。あまり間隔を短くしてうつことはできないのでね。」
それを聞いて、私は
「ステロイドは効かなくなっていくんですか?と言うことは、最後は痛みを感じながら死んでいくのですか?」
「そういうことになります」
この時初めて私は、この子の最期は自分に託されていることを知りました。
「ステロイドじゃなくて、他の治療法はありませんか?」
先生が説明してくれます。
「ステロイドは、免疫力を下げる薬なんです。痛みを抑制することはできるけれど、口内炎を治すわけじゃない。投与をやめたらまた元に戻るし、口内炎は進行しているのでもっと痛みを感じると思う。それとは正反対の治療法がインターフェロンです。インターフェロンは免疫力を上げる治療です。自分の免疫力を上げることで、炎症を抑える方法です。」
もっと言えば、ステロイドは比較的安価ですぐに痛みを和らげられる、インターフェロンは費用も高く、治療に時間もかかる。更に必ず効くとは限らない。
どちらの治療にするか、選択を迫られました。
「インターフェロンをお願いします」
ここから、うめの免疫力を上げる治療法が始まりました。
数日に渡ってインターフェロン注射をうちます。
その他にも、ネットや知人から見聞きして、免疫力をあげるサプリメント、コロイダルシルバやマイタケエキスなんかも試してみました。
更に、抗炎症剤のメタカムと、薬のオンパレードです。
治ると信じてやりました。
けれど、インターフェロンの結果は効果があまり見られず。
『治らない。どうしたらいいのだろう』
<つづく>
地域猫だったうめ。
耳のV字カットがかっこいいです。
コミカルな恰好で寝るうめ。
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